藤井聡太四段、27連勝。連勝記録まであと1。

 本日行われた朝日杯将棋オープン戦一次予選で藤井聡太四段が藤岡隼太アマに勝ち、デビューからの連勝を27に伸ばしました。いよいよ連勝記録歴代1位の28連勝にあと1勝まで迫りました。言葉にできない強さです。

 このブログで藤井四段について書いた最も新しい記事は、24連勝目を飾った対局に関するものでした。

 それからさらに3つ記録を伸ばしたことになります。その3局の中で最も印象に残った場面を、簡単に紹介したいと思います。

 今月15日に行われたC級2組順位戦瀬川晶司五段との一戦です。藤井四段が26連勝を決めた一局です。

 順位戦というのは名人戦への挑戦者を決めるリーグ戦のことです。A級、B級1組、B級2組、C級1組、C級2組のリーグに分かれていて、一年をかけてそれぞれの組でリーグ戦を戦います。A級で優勝した棋士が、名人戦の挑戦者となり、新しくプロになった棋士はみなC級2組からスタートします。C級2組で上位3位に入るとC級1組に昇級、C級1組で上位2位に入るとB級2組へ昇級・・・という仕組みです。つまり、名人戦はプロデビューしてから挑戦者になるまでに最低5年はかかる特殊なタイトル戦で、それだけ格が高いタイトル戦でもあります。昨年度プロ棋士になったばかりの藤井四段は今回が初めての順位戦への参加となり、C級2組からスタートしています。15日に行われた瀬川五段との一局は藤井四段の順位戦初戦でした。

 対戦相手の瀬川晶司五段のことをご存知の方も、もしかするといらっしゃるかもしれません。実は瀬川五段に関しては12年ほど前にちょっと話題になりました。というのも、瀬川五段は一度奨励会を年齢制限で退会し、その後特例でプロ編入試験を受けてプロ棋士になったのですが、その試験が行われたのが12年前でした。

 瀬川五段が編入試験を受ける前は、そのような制度はなく、プロ棋士になるには奨励会というプロ棋士養成機関で勝ち抜かないといけなかったのです。瀬川五段もかつてそこに所属していましたが、あと一歩のところで年齢制限という規則により退会せざるを得ず、一度プロ棋士への夢をあきらめます。しかしその後、アマチュア大会に参加して何度も優勝し、優勝者の権利としてアマチュア枠でプロ棋戦に参加すると、そこでプロ棋士を相手に高勝率を挙げたのでした。それを受けて瀬川五段と親交のあったプロ、アマ将棋関係者が、将棋連盟にプロ編入の嘆願書を提出し、編入試験が行われることになりました。それに見事合格しプロ棋士になったんですね。

 それ以降、アマチュア枠でプロ棋戦に出場したアマチュアが、プロ棋士相手に高勝率を挙げた場合にプロ編入試験を受けられる制度がつくられました。これまでプロ棋士になるには奨励会を勝ち抜けるしかなかったのが、別の道ができたことになります。瀬川五段はそれだけ大きな変化を将棋界にもたらした棋士です。瀬川五段に関しては著書もいくつか出版されていますので、興味を持たれた方はぜひ。

 前置きが長くなりましたが、藤井四段と瀬川五段の一局の印象的な場面を見ていきます。この一局は藤井四段が中盤でリードを奪いますが、瀬川五段も粘り強い指し回しで簡単には土俵を割りません。そして終盤、ついに瀬川四段の粘りが実を結びます。下図。

f:id:ktksm:20170617173628p:plain

 先手が瀬川五段、後手が藤井四段です。いま後手の藤井四段が△87歩と打ったところ。藤井四段は瀬川五段の次の一手を見落としていたそうです。それは▲46桂。この手は次に▲54桂~▲55馬を狙っています。▲54桂と王手をかけつつ相手の55の桂馬を支えている54の歩を取り、王が逃げたら支えがなくなった55の桂馬を馬で取ろうという狙いです。後手の55の桂馬は先手玉の逃げ道をふさいでいる重要な駒で、後手としてはこれをただで取られる展開だけは避けなくてはなりません。したがって、後手としては先手の▲54桂をいかに防ぐかが上図で喫緊の問題となっています。

 重要な55の桂馬を取る狙いを持った▲46桂という手を見落としていたのですから、藤井四段はかなり動揺したに違いありません。実際、「▲46桂を見落としていて、負けにしたかと思った」というコメントを局後に残しています。

 私はこの時の両対局者の様子を中継で見ていましたが、▲46桂が指される前後で藤井四段の様子が明らかに変わりました。指される前はかなり余裕がある雰囲気で勝ちすら意識しているように見えましたが、指された後は耳がやや赤くなり前傾姿勢になり身体を揺らして読みに耽っていました。また、こんなはずでは、というような思いを感じさせる仕草も見られました。

 ▲46桂の局面を載せましょう。

f:id:ktksm:20170617175222p:plain

 次の▲54桂をどう受けるかが問題と上に書きました。受けること自体は簡単です、△63金、△63銀、△53金など。しかし正解は恐らく一つだけであり、しかもいずれの手も膨大な変化手順を含んでいます。幸いだったのは藤井四段がこの時点で持ち時間を多く残していることでした。順位戦は持ち時間が6時間と長いのですが、藤井四段はまだ1時間以上残していました。ここで時間を存分に投入して考えます。

 そして藤井四段は恐らく正解を指しました。

 上図以下△63金▲54桂△同金▲66桂△65金▲同銀△同銀▲55馬△88歩成▲64馬△53桂▲54桂△33玉▲55馬△34玉▲48金△56金(下図)まで。藤井四段の勝ちとなりました。

f:id:ktksm:20170617180148p:plain

 コンピュータに検討させたところ、先手が▲46桂と跳ねた局面は互角になっているようです。それに対し藤井四段も最善の△63金で応じます。それからちょっと進んで瀬川五段が指した▲66桂が最善でなく、再び藤井四段の勝ちになったようです。代わりに▲55銀なら互角の熱戦が続いていたようです。しかし、この時瀬川五段はすでに持ち時間をすべて使い切っており、秒読みに追われていましたので、ミスが出るのも仕方ないところ。以下は藤井四段が2度は逃がさず勝ちました。

 個人的には、藤井四段が見落としをしたこと、その後の対局姿勢の明らかな変化、そして優位をふいにしても崩れずに勝ち切ったことがとても印象的な一局でした。

 さて、こうして連勝を伸ばし続けている藤井四段、28連勝をかけた対局の相手は澤田真吾六段です。いつタイトルに挑戦してもおかしくない若手の実力者で、非常に手ごわい相手です。

 実は藤井四段と澤田六段は、藤井四段が20連勝目をかけた対局で当たっています。その将棋についてはこのブログでも取り上げました。

 対局内容の詳細については上の記事を参照していただきたいのですが、藤井四段は絶対絶命とも言えるほど追い込まれた将棋を逆転して勝ったのでした。藤井四段のこれまでの27戦の中で最も負けに近づいた将棋でした。

 澤田六段の立場からみると、勝ちを目前にして逃してしまった相手に、それ以降さらに連勝を伸ばしているところで再び当たることになります。しかも歴代最長連勝記録に並ぼうという対局で。これは燃えるでしょう。澤田六段は必勝を期して臨んでくると思います。

 対局は今月21日に行われます。めちゃくちゃ楽しみです!!

藤井聡太四段関連記事】


 

飯縄山登山(6月11日)

 先週半ばから休養?のため帰省しています。帰省したとなると実家周辺の山に登ろうと思うのは当然の流れ。当初は妙高山に登りたいと思いましたが、まだ残雪が多くて断念。登山自体中止の選択肢も含めどの山にしようかな~と悩んでいたところ、両親も山に登ってみたいということで、両親基準でいい山を探してみる。両親は登山らしい登山は初めてなので、初心者向けのコースが第一条件。しかし、せっかくだから達成感や展望を味わってもらいたいということで、あまりに低すぎて簡単な山も除く。結果、飯縄山に決めました。

大座法師池より望む飯縄山

(写真はWikipediaより)

 調べてみたところ、飯縄山は、南登山道から登るとコースタイムがそれほど長くなく時間に余裕を持て、危険な道もほとんどなく、そして頂上からの360°パノラマが素晴らしいということでした。

 当日、天気は快晴。ラッキー!!

f:id:ktksm:20170612114739j:plain

 出発進行!

 南登山道ではずっと林道を登っていきます。両親のペースに合わせてゆっくりと。

 開始すぐ、父が予想以上に体力がないことが判明。まぁ年だし、運動してないし、仕方ないですね。頻繁に休憩を取りまくって登ることにしました。ちなみに母は普段ランニングをしているため余裕そうでした。

 登りも終盤、父がめまいを訴え始めました。おそらく脱水症状だったので、長めの休憩を取ってスポーツドリンクをたくさん飲むように言います。もちろん、それまでも本当にたくさんの休憩を取って、そのたびに水分補給をしていました。しかし、体力がないためすぐ息が上がり、発汗が思ったよりも多かったようです。もっとたくさん水を飲むように言うべきでした。反省。

 しばらく休んで水分補給をしたところ、回復したようなので、再開。もう頂上はすぐでした。 

f:id:ktksm:20170612114834j:plain

 無事に登って来られてよかった~。

 展望は話に違わず最高でした。

 後立山連峰

f:id:ktksm:20170612114752j:plain

 槍と穂高

f:id:ktksm:20170612114807j:plain

 長野市街と、奥に美ヶ原?

f:id:ktksm:20170612114827j:plain

 これらの絶景に、両親も喜んでくれました。

 山頂で皆でおにぎりを食べ、休憩。父もこれで完全に復活したようです。絶景を存分に楽しんで、下山。

 ワイ

f:id:ktksm:20170612122250j:plain

 下りは、慎重に、水分補給もしっかりとして、無事に下山完了。

 今回のコース、活動記録など。

f:id:ktksm:20170612122310p:plain

f:id:ktksm:20170612122318p:plain

f:id:ktksm:20170612122323p:plain

 活動時間がコースタイム+2時間くらいになっています。それだけたくさん休憩を取ってゆっくり歩きました。

 最初に書いたように、初心者向けコースとしてこのコースを選びましたが、累積標高上り下り1600mは、私がGWに登った百名山の大山(鳥取県)より多い。ちょっと両親(特に父)にはキツすぎたかもしれません。コース選びは難しいな。

 私に関しては、今回の登山では、かつてなく楽に登ることができ、私の課題であった大量の発汗とそれによる水分の消費をかなり抑えることができました。しかも今回私は、両親の分の水分や食料も背負って登っていて、それなりに荷物が重い中でこのように登ることができたのは、登り方の改善につながる可能性があります。

 楽に登ることができた要因としては、二つ考えられます。一つはゆっくりとしたペース。今までの私の単独行では、コースタイムをどれだけ縮められるかという挑戦心のようなものもあって、きつくて汗をかいても早めのペースで歩いていました。それが今回は両親の安全を最優先にゆっくり歩きました。それが、予想以上に楽だった可能性があります。

 もう一つはサポータータイツを穿いていったこと。実家に兄のスポーツ用サポータータイツがあったので、それをかりて行きました。私はこれまでそのようなものを穿いて登山をした経験がなく、これが初めてでしたが、それが下半身の負担を軽減してくれたために楽だった可能性があります。

 以上2つの要因が考えられます。とりあえず、次の山行ではかなりゆっくりめのペースで登ってみて、そのときどの程度のキツさを感じるか調べてみます。それでとても楽だったら、それ以降もペースを落として登ります(もちろん、トレーニングをして楽に登れるペースを上げていく)。もしそれでもキツかったら、サポーターの方が役に立っていた可能性が高まるので、自分用のを買おうかな。

 さて、両親ですが、登山にハマりつつあるようです。私としては一緒に登れるのは嬉しいのですが、心配な気持ちも大きいです。父は体力があまりにも少ないですし、両親とも登山に関してどの程度の知識を持っているのか(もちろん私もひよっこですが)。両親二人だけで登るとなると、心配でなりません。とりあえず帰省しているうちに、少ないながらも私が持っている知識を両親に伝えて、また普段からウォーキングなどで鍛えておくことを勧めたいと思います。

 家族でいろいろな山に登れるようになるといいな。

藤井聡太四段対梶浦宏孝四段戦【叡王戦】

 本日行われた叡王戦予選1回戦で藤井四段が梶浦四段に勝ち、デビューからの連勝を24に伸ばしました。これで藤井四段は本日午後19時から2回戦行われるに駒を勧めることになりました。また連勝記録は丸山忠久九段と並び、歴代2位タイとなりました。アンビリバボー!!

 以前このブログでは藤井四段の強さを分析する記事を書きました。 

 今回の藤井—梶浦戦で上の記事で書いた藤井四段の強さの特徴が見られたので、その場面を簡単に見ていきたいと思います。

 まず、下図(第1図)。

f:id:ktksm:20170610124439j:plain

 中盤戦で抜け出した藤井四段(後手)が、有利に局面を進めて迎えた終盤戦、今先手の梶浦四段が▲47角と打ったところです。叡王戦予選は持ち時間が短く(持ち時間は1時間、それを使い切ると1手60秒の秒読み)、この時点で藤井四段はすでに秒読みになっていました。この角打ちは飛車と金の両取りとなっています。一般的に金よりも飛車の方が価値が高いので、この局面では△19飛車成や△28飛車成などと飛車を逃げるものだと考えられました。

 第1図から△66歩▲29角△67歩成▲65角△66歩と進み下図(第2図)。

f:id:ktksm:20170610124449j:plain

 なんと、藤井四段は飛車を逃げずに攻めました。

 上にリンクを貼った藤井四段の分析記事で、藤井四段の強さの一つに、踏み込みの良さがあると書きました。第1図で藤井四段が指した△66歩はまさに踏み込みの良さを示した手でした。というのも、この△66歩という手は、本譜(実際の進行のこと)のように飛車と金を取られる手だからです。第2図を見ていただければわかるように、藤井四段は飛車と金を取られてしまっています。そして飛車を相手に渡すと、藤井四段は自分の玉の安全度をつねに考慮に入れなくてはいけなくなります。飛車は強力な攻め駒だからです。そのようなリスクを負う局面を秒読み中で選べるというのは、まさに藤井四段の踏み込み、見切りの良さを示した例だと思います。

 ただし、将棋には「両取り逃げるべからず」という格言があります。これは、第1図のように両取りをかけられた局面では、どうせどちらかの駒は取られるのだから、どちらかの駒を逃がすのに一手を使うならその一手を攻めの手に使った方が良い、ということを表す格言です。この格言はけっこう当てはまる局面が多く、特に一手の価値が高まる終盤戦ではよく当てはまります。藤井四段が第1図で指した △66歩もその格言に従った手とも言えます。

 しかし、いくら格言通りと言っても、一番強力な駒である飛車を相手に渡すようなハイリスクな手を指せるのは、藤井四段の踏み込みの良さがあってこそだと思います。

 さて、第2図まで進んでみると、先手玉は徐々に受けが難しくなっており、後手の藤井四段の踏み込みが功を奏したと言えます。ただ、先手も飛車を持っており、また角のラインも強烈ですので、藤井四段としては神経を使う局面でもあります。

 実戦はここから▲76銀△55桂▲44歩△68と▲88玉△64金▲43歩成△65金▲72飛車と進んで下図(第3図

f:id:ktksm:20170610124454j:plain

 梶浦四段が一方的に攻められていた状況からなんとか攻め合いに持ち込みました。そして第3図は後手の藤井四段の玉に詰めろがかかっています。

 「詰めろ」という用語については下の記事で説明していますので、ご存知ない方は参照してください。

藤井聡太四段対澤田真吾六段戦① 

 第3図では次に▲32飛車成または▲32とで後手玉が詰んでしまいます。それらを防ごうと、△43金としてと金を取っても、▲32金と打たれてやはり詰んでしまいます。72にいる飛車の利きが強烈ですね。しかもこの飛車は先手玉の守りにも利いています。飛車はこのように強力な駒ですので、第1図でそれを渡す手順に踏み込んだ藤井四段はやはり強いです。

 ただし、第3図では後手玉に詰めろがかかっているとはいえ、先手は攻め駒が不足しているため、後手は自玉を受けることができます。そしてここさえ凌げば、先手玉はもう持たないので、後手の勝ちになります。というわけで、第3図では後手の藤井四段がどう受けるかが注目されました。

 第3図から△42歩▲44歩△22玉▲32と△13玉と進んで下図(第4図

f:id:ktksm:20170610124502j:plain

 と金と飛車による攻めを受け流して、13に玉を逃げ込んだのが勝ちを決定づける手順でした。というのも後手のこの13玉の形は、先手が角か銀を持っていない限り有効な王手がかからないのです。持ち駒に角か銀を持っていれば先手は▲22角や▲22銀から先手玉に迫ることができますが、それらを持っていないと意外と後手玉に迫る手段がありません。そして現状では先手はそれらを持っておらず、さらに盤上で手に入れることもできそうにありません。逆に後手からすると、角と銀を渡すことだけに注意して先手の玉を攻めればよい局面に持ち込んだわけで、非常に考えやすくなりました。

 このように「〇〇さえ渡さなければ自玉は詰まない」という状況を発見してその局面に持ち込む技術は、とても役に立ちます。藤井四段がまさにその状況をつくり出した第3図から第4図までの手順は、プロ棋士にとっては当たり前の手順かもしれません。しかし逆にプロでもそういう基本的な手順の積み重ねで指しているわけであり、我々アマチュアが参考にできるところでもあります。

 第4図以下は▲68角△67歩成▲65銀△78銀となって、先手玉に受けがなくなり梶浦四段の投了となりました。

 以上のように、踏み込みの良さと安定の終盤力を発揮して勝利した藤井四段。最初に書いたように本日19時から行われる叡王戦予選2回戦に進みました。2回戦も初戦と同様にニコニコ動画の将棋公式生放送チャンネルで生中継されます。どのような将棋を見せてくれるのか、非常に楽しみです。

【藤井四段関連記事】


藤井聡太四段、連勝を23に伸ばす!

本日、藤井聡太四段がデビューからの連勝を23に伸ばしました。藤井四段については本ブログでも何回か取り上げています。

【藤井四段関連記事】

  いやー最近はすっかり将棋の記事ばかりになってしまっています。こんなはずでは・・・まぁしかし、これからの時代は、趣味が人生においてますます中心的なものになると言われていますし、その点将棋は(ほどほどにやれば)いい趣味ですし、いま自分が持っている趣味の一つとして大事にしていきたいなと思います。このブログでは、将棋をあまり知らない方々でもなんとなくわかるように、将棋界の話題を書いていければと思っています。上に貼った記事もそのように書いたつもりですので、よろしければご覧ください。

 さて、本日藤井四段が対局したのは、上州YAMADAチャレンジ杯。これは昨年新設されたばかりの棋戦で、五段以下でプロ入り後15年以下の棋士だけが参加できます。謂わば若手の登竜門的棋戦です。持ち時間が20分、切れたら1手30秒と、とても短いのが特徴で、プロ棋戦としては珍しく1日に複数局指されます。本日藤井四段は勝ち続けると最大3局この棋戦を指す可能性がありました。

 私は、今日の3連戦で連勝が止まる可能性が高いのではないかと思っていました。そう思ったのには3つの理由があります。

 一つは、上にも書いた持ち時間の短さ。20分、切れたら30秒というのはプロ棋戦の中では非常に短い部類で(プロ棋戦では持ち時間3時間から6時間が多い)、持ち時間が短ければそれだけミスをする可能性が高まるからです。すなわち、持ち時間が短いほどミスは不可避になり、それが出るか否かに運の要素が入り込むと考えられるからです。もちろん相手も同じ条件なのですが、仮に藤井四段の方が強いとした場合に、運の要素が増えた方が藤井四段が負ける可能性が高まるのではと思われました。(ただ、持ち時間が少ないと番狂わせが起こる可能性が高まるとは一概には言えなず、第一人者の羽生三冠は持ち時間が短いNHK杯で4連覇を含む10度の優勝を成し遂げている。)

 もう一つは、相手の戦法との相性です。公式戦では全勝の藤井四段ですが、非公式戦(将棋祭りなどでのお好み対局)ではこれまでに3敗しています。そしてそのうちの2敗の対局では相手が*振り飛車を採用していました。居飛車が主流の現代将棋において、対居飛車よりも対振り飛車に多く負けているということは、藤井四段が振り飛車に対して、指し方を確立できていない可能性が考えられます。そして、今日の3連戦で当たる可能性のあった相手は、振り飛車党の棋士が多いのでした。

*将棋の戦法は大きく分けると居飛車振り飛車に二分される。どちらの戦法を選ぶかで戦い方は大きく異なる(将棋界では「振り飛車居飛車は感覚が違う」などと言われる。)。現在プロ棋士では居飛車を指す棋士の方が圧倒的に多い。

 最後の理由は、単純に3局も指すということです。これは体力的問題などではなく確率的問題で、仮に1局の対局に80%の確率で勝つとしても、3連勝できる確率は51.2%です。体力的には、*奨励会ではもっと長い持ち時間で1日3局指していたので、特に心配していませんでした。

*奨励会とは日本将棋連盟プロ棋士養成機関である。三段まで上がり、さらに所定の成績を収めると、四段に昇段( = プロ入り)をする。(Wikipediaより抜粋)。奨励会では級位者は持ち時間60分切れたら一手60秒で1日3局、有段者は持ち時間90分切れたら一手60秒で1日2局指す。

 以上のように、短い持ち時間と振り飛車党の相手、この条件で藤井四段が3連勝できるかは、けっこう怪しいと思っていました。連勝を伸ばすうえで、今日は一つの山場だと思っていました。

 ふたを開けてみると、見事に3連勝。杞憂でした。

 ただ、中にはかなり危ない将棋もありました。これに関しては(気が向いたら)別記事で書きたいと思います。

 これで藤井四段は連勝を23に伸ばしました。これは歴代単独3位の長さ。史上最強の棋士羽生善治三冠の記録、22連勝も抜きました。上には24連勝の丸山九段と、28連勝の神谷七段しかいません。アンビリーバボー!!!

 藤井四段の次の対局は今月10日㈯に行われる叡王戦予選。この対局も持ち時間が1時間切れたら1手60秒と短く、1日に2局行われます。つまり藤井四段はそこで一気に25連勝まで伸ばす可能性があります。そうすれば歴代単独2位。いやぁすごい。ちなみにこの対局は当日ニコニコ動画の将棋公式チャンネルで生中継される予定です。必見です。

 

藤井聡太四段対澤田真吾六段戦

 いま世間を賑わしている将棋のプロ棋士藤井聡太四段。このブログでも2回取り上げました。 

 今回は藤井聡太四段が20連勝を決めた澤田真吾六段との一局について分析していきます。将棋を知らない人でもなんとなくわかるように、できるだけ簡単に書いてみようと思います。

 いきなりハイライトから見て行きましょう。下図(第1図とします)。

f:id:ktksm:20170603112557p:plain

 先手(下側)が藤井四段。今後手の澤田六段が△67同ととしたところ。この局面、藤井四段は非常に追い込まれています。というのも、先手玉は部分的に「必至」なんですね。ここで将棋用語を確認しておきましょう。

 まず「詰めろ」について。これは「もし受けなかったら次に詰みますよ」という状況のことを言います。たとえば下図。

f:id:ktksm:20170603112607p:plain

 この局面は上の玉に「詰めろ」がかかっています。もし下の手番だったら▲52金と打って詰みです。このように、もしなにも受けなかったら次に詰みますよという状況が「詰めろ」です。ですからこの局面でもし上の手番だったら、詰めろを防ぐために自玉を受けますよね。たとえば△52金とか△42金とか、あるいは△52歩でも詰めろを防ぐことができます。次に詰む状況、これが「詰めろ」です。

 将棋界には「詰めろ」に似た意味の用語があります。それは「必至」です。これは「受けがない詰めろ」のことです。たとえば下図。

f:id:ktksm:20170603112610p:plain

 この局面、上の玉には「必至」がかかっています。というのも、この玉には▲41金と▲61金の2通りの「詰めろ」がかかっているのですが、それを同時に防ぐ手立てが無いからです。どう受けても次に詰まされてしまいます。このように詰めろの中でも特に「受けのない詰めろ」のことを「必至」と言います。集合的に言いますと、「必至」は「詰めろ」の部分集合ということになりますね。

 上の例は部分的な局面でしたが、実戦においては、自玉に必至を掛けられたら、基本的に相手玉を詰ますしか勝ち目がありません。だって自玉は次に詰まされてしまうのに受けがないのですから。残された手段は相手玉を詰ますことしかないわけで、詰ますことができれば勝ち、できなければ負けなわけです、基本的に。

 では、ここで改めて藤井四段の実戦の局面を見てみましょう。もう一度第1図を載せます。

f:id:ktksm:20170603112557p:plain

 藤井四段(先手)の玉には△78とや△78銀、△68とからなど様々な詰み手順があり、それらを全て同時に防ぐ手段はなく部分的には必至です。となると残された手段は敵玉を詰ますことしかないように思われます。しかし、藤井四段もかなり持ち駒が多いのですが、後手玉はギリギリ詰みません。

 自玉は必至、敵玉は不詰み、では藤井四段の負けか、というとそうとも限らないことところが実戦の面白いところです。自玉が部分的に必至な時は基本的に相手玉を詰ますしかないのですが、稀にそれ以外の手段が生じることがあります。それは王手の連続で敵玉を追いながら、自玉の必至を解くという手段です。上の局面で藤井四段はその手段を取り絶体絶命のピンチを切り抜けます。

 上図から▲33成銀△同玉▲34銀△44玉▲22角△33銀▲同銀不成△55玉▲32銀不成△64玉▲76桂△同金▲67歩と進み下図(第2図)。

f:id:ktksm:20170603120730p:plain

 手順を追えない方は第1図と第2図の局面だけ比べてみてください。必至のはずだった先手玉が、あら不思議、受かっています。この手順中に藤井四段がしたことは、王手の連続で敵玉を追い、その過程で77にいた金を76に移動させることにより自玉を受けやすくし(この時点で自玉は「必至」から「詰めろ」に変わっていた)、そして67にいたと金を取って「詰めろ」を防いだわけです。このように自玉が「部分的に」必至でも、敵玉をその近くまで追い、敵玉に王手をかけながら自玉の必至「部分」に影響を及ぼすことで、必至を消すことができる局面が稀に生じます。特に強い人はそういう手順も考慮に入れて読みを組み立てます。

 ところで、受けがない詰めろのことを「必至」というのに、どのような手段を取ったにせよ受けが利くのなら、そもそも「必至」ではないのではないか、という意見が当然生じると思います。たしかに、それはその通りで、受けが利くのなら厳密には必至とは言えないと思います。私が上で「部分的に必至」と書いてきたのは、先手玉の周りだけたとえば盤面の左下4×4マスだけを見た場合に必至という意味で、局面全体を考慮した場合には必至ではない可能性もあったからです。ただ、盤面全体を考えたときに厳密に必至かどうかを判断するのは難しいので、ここでは深入りしないでおきましょう。

 さて、ここで藤井四段の実戦(第1図)に戻ってみましょう。上に書いた意味での「部分的に必至」の局面です。ここから第2図に至る上の手順で、見事に自玉の受けを作った藤井四段でしたが、この手順中で澤田六段が間違えた可能性があります。そして、もし澤田六段が応手を間違っていなければ、やはり藤井玉の必至は消えず澤田六段が勝っていた可能性が高いです。問題の局面は下図(第3図)。

f:id:ktksm:20170603122347p:plain

 これは第1図から▲33成銀△同玉▲34銀△44玉▲22角△33銀▲同銀不成△55玉▲32銀不成△64玉▲76桂と進んだところです。実際の進行はこの▲76桂を△同金と取ったために▲67歩(第2図)と取られ先手玉の詰めろが消えたわけですが、この▲76桂に△75玉としていればどうだったか。その局面は後手の77の金が相変わらず先手玉の上部を押さえているため、先手玉は変わらず「部分的に」必至です(77に金がいる状態で▲67歩としてと金を取っても、△78銀で詰まされてしまう)。そして後手玉はどうかというと、かなり危ないですが、おそらく詰みはありません。そして先手としては後手玉に迫りながら自玉の必至を消す有効な手段もないように見えます。つまり、▲76桂に△75玉としていれば澤田六段の勝ちだったと思われます。

 なぜ、澤田六段は▲76桂に△75玉ではなく△同金としてしまったのか。それには様々な要因があると思います。まず、単純に△75玉の局面もかなり危なく見えること。そして時間の切迫。澤田六段はこのときすでに一分将棋(一手一分以内に指さないといけない)でした。最後に、藤井四段の圧倒的詰将棋解答能力。以前の記事で藤井四段の詰将棋解答能力は異次元と書きましたが、これはプロにとっても異次元なレベルなわけです。その藤井四段に王手王手で迫られたら・・・安全な手を選びたくなります。他には注目される中でのプレッシャーもあったかもしれません。そのような様々な要因が絡んで△76同金としてしまったのだと思います。

 こうして第2図まで進み、藤井四段はなんとか絶体絶命のピンチを切り抜けました。とはいえ、第2図もまだまだどちらに転ぶかわからない局面です。もしアマチュアの私がどちらかの代わりに指したら、あっという間に負けるような局面です。もう一度第2図を載せます。

f:id:ktksm:20170603120730p:plain

ここから△46角▲57銀△55桂▲56銀打△85飛▲46銀△78銀▲同玉△67桂成▲同銀△87飛成▲79玉△67金と進んで下図(第4図)。

f:id:ktksm:20170603154156p:plain

 再び先手玉に「部分的に」必至がかかりました。これを藤井四段は絶妙の手順で切り抜けます。そしてこの手順が勝利を決定づけました。

 第4図から▲55角成△75玉▲65金△85玉▲77桂△76玉▲75金△同玉▲65馬△84玉▲87馬と進んで下図(第5図

f:id:ktksm:20170603154215j:plain

 またしても敵玉を追いながら相手の竜を抜いて自玉を受けてしまいました。そして第5図となると、今度は先手玉は不詰み、後手玉には「詰めろ」がかかっており、しかも有効な受けが見あたりません。以下幾ばくもなく澤田六段は投了し、藤井四段の勝ちとなりました。華麗なる逆転劇でした。

 この逆転劇をリアルタイムで見ていた将棋ファンは大盛り上がりでした。「今年度の名局賞(最も優れていると認められた一局に贈られる賞)間違いなし」の声も上がるほどでした。また、本局は中継アプリのサーバーが落ちるほどの注目も集めました。そのような対局でこのような大熱戦を繰り広げた両対局者は本当に素晴らしいと思います。

 かつて羽生善治三冠が今回の藤井四段のような逆転勝ちを多くしたので、それに対して「羽生マジック」という呼称がつけられました。藤井四段の将棋にもそのような呼び名が付けられる日は遠くないかもしれません。

 さて、今記事では藤井四段対澤田六段の終盤戦について簡単に書いてみました。この一戦については(気が向いたら)もう一つ記事を書こうと思っています。では、それまで。