藤井聡太四段について~なぜこれほどまで話題になったのか、強さの秘密はどこにあるのか~

 今回は、いま世間で話題となっている将棋のプロ棋士藤井聡太四段について書きたいと思います。

 実は私は将棋が趣味でして、かつてはかなりのめり込んでいました。あまりにのめり込みすぎて一時期は生活が崩壊してしまっていたので、ここ数年は自分が指すのは自重して、時々プロの将棋を観戦しながら楽しんでいます。すっかり「観る将」となった私ですが、今観戦するのが楽しい棋士がいます。そう、藤井聡太四段です。(このブログでは将棋のことは書かないでおこうと思っていたのですが、藤井四段の才能がそうはさせてくれませんでした。)

 最近はNHKのニュースや民放のワイドショーなどでも頻繁に取り上げられる藤井四段。将棋界に半身を置くものとしては、不思議な感じがします。将棋の話題がこんなにたくさんマスメディアに取り上げられるなんて。ところで、そもそもなぜこれほど話題になっているのでしょうか。簡単に振り返ってみたいと思います。

・史上最年少でプロ棋士

 第一の注目ポイントとして14歳2か月という史上最年少でプロ棋士になったことが挙げられます。それまでの最年少記録は加藤一二三九段の14歳7か月でしたが、この記録を62年ぶりに更新しました。また藤井四段は史上5人目の中学生棋士でもあります。先輩の中学生棋士4人はみな、名人位か竜王位を獲得するトップ棋士になっています。帰納的に考えても、藤井四段は活躍が約束された特別な存在です。

・デビューから18連勝中

 しかし、史上最年少棋士というだけでは話題は将棋界だけにとどまり、世間を賑わすほどにはならなかったと思います。これほどまでに取り上げられるようになった要因として、もう一つ、デビューしてから勝ちまくっていることが挙げられるのではないでしょうか。なんと藤井四段はデビューからここまで負けなしの18連勝中です。これまでのプロデビューからの最長連勝記録は10連勝で、それを大幅に更新しています。また「デビューから」という条件を含まない連勝記録としても、18連勝は歴代7位の長さ。ちなみに歴代最長連勝記録は28連勝で、この記録にどこまで迫るかにも注目です。

・炎の七番勝負

 また、彼が注目を集めているもう一つの要因として、AbemaTVで放送された非公式戦「藤井聡太四段 炎の七番勝負」があります。これは(世間で話題になる前に)将棋界における彼への大きな注目を受けて考案された、トップ棋士7人と藤井四段が対局するという企画です。対戦相手となった7人の棋士には、将来が有望視されている若手や、順位戦A級に所属するトップ棋士、そして史上最強の棋士羽生善治三冠が選ばれ、まさに実力者揃いでした。この7番勝負で藤井四段は6勝1敗の好成績を挙げます(上記のように、この7番勝負は非公式戦なので、ここでの1敗は公式データには含まれない)。特に羽生善治三冠に勝ったのには、誰もが驚きました。ここまで強いとは、と(個人的に、「羽生善治に勝つ中学生」ってものすごいパワーワードだと思います)。

 以上のように、史上最年少棋士という肩書と、底知れぬ実力が相まって、これほどまでメディアに取り上げられるようになったと考えられます。

 では、彼の強さの秘密はどこにあるのでしょうか。私は、プロ棋士とはレベルが違いすぎてプロの将棋を分析することなど困難なアマチュアですが、それでもアマチュアなりに考えてみたいと思います。

 一番に挙げられるのは終盤の強さだと思います。

 終盤の強さを客観的に測るのは困難なのですが、詰将棋という、終盤力とかなりの相関のある分野の能力を見れば、ある程度の測定はできます。詰将棋とは「が配置された将棋の局面から王手の連続で相手の玉将[2]詰めるパズルで、元は指し将棋(詰将棋と区別する上でこう呼称する)の終盤力を磨くための練習問題という位置づけであったと思われるが、現在ではパズルとして、指し将棋から独立した一つの分野となっている。」(Wikipediaより)。ここにあるように、詰将棋は玉を詰ますパズルですので、その解答能力は、敵玉と自玉の詰む詰まないを素早く正確に読む必要がある将棋の終盤の強さと、かなり高い相関関係があると考えられます。

 詰将棋の具体例として、最も有名で簡単な問題を載せておきます。

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 攻め駒は盤上の銀と角、それに持ち駒の銀です。この3枚だけで相手玉を詰まします。攻め駒と盤上の駒以外のすべての駒は相手の持ち駒にあると考えるのがルールです。この問題の正解手数は3手、すなわち、自分が何かを指す、相手がそれに最善手で応じる、それに対して自分が指す、で詰みます。この詰将棋もそうなのですが、ほとんどの問題にはキラリと光る手が少なくとも一手あり(そういう手がなくただ駒を並べていけば詰むような問題は詰将棋としては駄作で「詰む将棋」とも揶揄される)、それを発見することが詰将棋を解く醍醐味の一つです。

 さて、詰将棋の分野においては、詰将棋解答選手権という大会が毎年開かれています。この大会は第1ラウンドと第2ラウンドに分かれており、各ラウンドの制限時間は90分、問題は5問ずつ難問が出題されます。順位は、解答の正確さ(1問当たり10点の配点、部分点あり)で競われ、同点の場合は解答タイムの速い者が上位となります。大会にはアマチュアからプロ棋士まで誰でも参加できます。アマチュアがプロ棋士に勝てるの?と思われるかもしれませんが、詰将棋は指し将棋とは独立した分野で、指し将棋は指さないけど詰将棋は好きというアマチュアもたくさんいて、そのような人の解答能力はかなり高いです。実際に、過去にアマチュアが優勝したこともあります。

 この詰将棋解答選手権で藤井四段はなんと現在3連覇しています。トップ棋士詰将棋専門にやっているアマチュアがたくさん参加している中で、です。初優勝したのは一昨年の第12回大会、まだプロ棋士になる前の小学6年生の時でした(史上初の小学生優勝)。将棋界で彼が本格的に注目され始めたのは、このころからだったと思います。3連覇するだけでもすごいのに、さらに彼はダントツの成績で優勝しています。特に昨年の第13回大会での成績は圧倒的でした。

 第13回大会で藤井四段は、第一ラウンドの5問を所要時間20分で全問正解しました。2位の人でも54分かかっていて、ほとんどの参加者(多くのプロ棋士を含む)は制限時間の90分をかけても全問正解できずにいる中で、です。この数字は次元が違います。

 詰将棋の圧倒的解答能力を見ると、指し将棋での終盤の強さも飛び抜けていると考えられます。終盤力は間違いなく彼の武器の一つです。

 彼の将棋の強さには、終盤力の他に、リスクを恐れないことが挙げられます。これは局面を用いて説明します。

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 これは今月18日に行われた加古川清流戦の竹内四段戦の終盤の局面です。今、先手(下側)の竹内四段が▲5二金と打った局面です。この局面までの流れを振り返ると、長い中盤戦を経て藤井四段がやや抜け出したが竹内四段も離されないように付いていて、図の局面ではほぼ互角の形勢、竹内四段の嫌らしい食いつきに藤井四段はどう対処するかというところです。加古川清流戦は持ち時間が少なく、この時すでに両者1分将棋(一手60秒以内に指さないといけない)に入っていました。

  秒読みに追われる中、藤井四段はここで驚愕の1手を指します。それは△1五歩。竹内四段に攻めつかれて自玉が危険な状況で、攻めの一手を指しました。しかもこの攻めの手は(確かに攻める上では一番急所の手ではあるが)特別に速いわけでも受けにくいわけでもありません。つまり藤井四段は、だれがどう見ても危ない自玉をギリギリで凌ぎながら敵玉を討つことができる、と見切ったわけです。この見切りはただならぬことで、はたしてプロ棋士の中に1分将棋でこの局面を前にして攻めの手を指せる人がいるでしょうか。

 あまりにリスキーで衝撃的な一手だったため、ネットではこの手の善悪を巡る議論が起こったそうです(実際にはやはり危険で悪手だったらしい)。しかし、この手は善悪という基準で扱うような手ではありません。そのような基準を超えた、この手を指したこと自体が問題となる手なのです。

 つまり100人中100人が自玉が危険で受ける必要があると判断する局面で、受けずに攻めの手を指すことができる、この能力が問題なのです。そのような手を指すには、並外れた終盤力はもちろんのこと、それに加えて自分の読みへの絶対的な自信とリスクを恐れないメンタルが必要だと考えられます。この後者二つを持ち合わせている人間はそう多くないでしょう。私は、将棋界では藤井四段の他には一人しか思い浮かびません。藤井四段が本局で見せたような見切りと踏み込みをときどき見せる史上最強の棋士羽生善治三冠です。

 羽生三冠と言えば、将棋界のほぼ全ての記録を更新し続けている、間違いなく史上最強の棋士です。その強さの秘密は、盤上の技術だけでなく、メンタルの強さも兼ね備えているところにあると思われます。そして、上に挙げた将棋から、藤井四段もそれと同様のメンタルをそなえていることが明らかになりました。そう考えると、藤井四段は、羽生三冠と同等の記録を残し、あわよくば超えていける能力を秘めていると思います。 

 以上、藤井四段の強さについて分析してみました。

 上記のように藤井四段は現在18連勝中ですが、これだけ勝ちまくっていると、各棋戦で上位に進出しはじめています。たとえば竜王戦ではランキング戦の決勝にまで勝ち上がっていて、今月25日に行われる決勝戦に勝つと本戦に進出、そこで勝ち上がればタイトル挑戦です。さすがにそこまで行くとは思えませんが、決して夢物語ではありません。

 一方で、他のプロ棋士の方もこのまま黙ってはいないと思います。現在18連勝中とはいえ、トップ棋士との対局はまだ少なく、トップ棋士とたくさん対局するようになってからどこまでの成績を残せるかはまだわかりません。「炎の七番勝負」ではトップ棋士相手に好成績を収めましたが、非公式戦ということもあって対戦相手は様子見をしていた印象が強く、本気で負かしに来ていたら違った成績になっていたと思います。これから棋譜がたくさん残り、たくさん研究されていったときにどれだけ勝てるか、見物です。

 と書いたものの、私はこれからも破竹の勢いで勝ち続けると思います。もちろん負けもするでしょうが、相当の高勝率を上げ続けると思います。現時点でこれだけ強いのに、若さを考えるとまだまだ伸びて手が付けられなくなると思われるからです。

 これからも藤井四段に要注目です。

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