藤井聡太四段対梶浦宏孝四段戦【叡王戦】

 本日行われた叡王戦予選1回戦で藤井四段が梶浦四段に勝ち、デビューからの連勝を24に伸ばしました。これで藤井四段は本日午後19時から2回戦行われるに駒を勧めることになりました。また連勝記録は丸山忠久九段と並び、歴代2位タイとなりました。アンビリバボー!!

 以前このブログでは藤井四段の強さを分析する記事を書きました。 

 今回の藤井—梶浦戦で上の記事で書いた藤井四段の強さの特徴が見られたので、その場面を簡単に見ていきたいと思います。

 まず、下図(第1図)。

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 中盤戦で抜け出した藤井四段(後手)が、有利に局面を進めて迎えた終盤戦、今先手の梶浦四段が▲47角と打ったところです。叡王戦予選は持ち時間が短く(持ち時間は1時間、それを使い切ると1手60秒の秒読み)、この時点で藤井四段はすでに秒読みになっていました。この角打ちは飛車と金の両取りとなっています。一般的に金よりも飛車の方が価値が高いので、この局面では△19飛車成や△28飛車成などと飛車を逃げるものだと考えられました。

 第1図から△66歩▲29角△67歩成▲65角△66歩と進み下図(第2図)。

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 なんと、藤井四段は飛車を逃げずに攻めました。

 上にリンクを貼った藤井四段の分析記事で、藤井四段の強さの一つに、踏み込みの良さがあると書きました。第1図で藤井四段が指した△66歩はまさに踏み込みの良さを示した手でした。というのも、この△66歩という手は、本譜(実際の進行のこと)のように飛車と金を取られる手だからです。第2図を見ていただければわかるように、藤井四段は飛車と金を取られてしまっています。そして飛車を相手に渡すと、藤井四段は自分の玉の安全度をつねに考慮に入れなくてはいけなくなります。飛車は強力な攻め駒だからです。そのようなリスクを負う局面を秒読み中で選べるというのは、まさに藤井四段の踏み込み、見切りの良さを示した例だと思います。

 ただし、将棋には「両取り逃げるべからず」という格言があります。これは、第1図のように両取りをかけられた局面では、どうせどちらかの駒は取られるのだから、どちらかの駒を逃がすのに一手を使うならその一手を攻めの手に使った方が良い、ということを表す格言です。この格言はけっこう当てはまる局面が多く、特に一手の価値が高まる終盤戦ではよく当てはまります。藤井四段が第1図で指した △66歩もその格言に従った手とも言えます。

 しかし、いくら格言通りと言っても、一番強力な駒である飛車を相手に渡すようなハイリスクな手を指せるのは、藤井四段の踏み込みの良さがあってこそだと思います。

 さて、第2図まで進んでみると、先手玉は徐々に受けが難しくなっており、後手の藤井四段の踏み込みが功を奏したと言えます。ただ、先手も飛車を持っており、また角のラインも強烈ですので、藤井四段としては神経を使う局面でもあります。

 実戦はここから▲76銀△55桂▲44歩△68と▲88玉△64金▲43歩成△65金▲72飛車と進んで下図(第3図

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 梶浦四段が一方的に攻められていた状況からなんとか攻め合いに持ち込みました。そして第3図は後手の藤井四段の玉に詰めろがかかっています。

 「詰めろ」という用語については下の記事で説明していますので、ご存知ない方は参照してください。

藤井聡太四段対澤田真吾六段戦① 

 第3図では次に▲32飛車成または▲32とで後手玉が詰んでしまいます。それらを防ごうと、△43金としてと金を取っても、▲32金と打たれてやはり詰んでしまいます。72にいる飛車の利きが強烈ですね。しかもこの飛車は先手玉の守りにも利いています。飛車はこのように強力な駒ですので、第1図でそれを渡す手順に踏み込んだ藤井四段はやはり強いです。

 ただし、第3図では後手玉に詰めろがかかっているとはいえ、先手は攻め駒が不足しているため、後手は自玉を受けることができます。そしてここさえ凌げば、先手玉はもう持たないので、後手の勝ちになります。というわけで、第3図では後手の藤井四段がどう受けるかが注目されました。

 第3図から△42歩▲44歩△22玉▲32と△13玉と進んで下図(第4図

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 と金と飛車による攻めを受け流して、13に玉を逃げ込んだのが勝ちを決定づける手順でした。というのも後手のこの13玉の形は、先手が角か銀を持っていない限り有効な王手がかからないのです。持ち駒に角か銀を持っていれば先手は▲22角や▲22銀から先手玉に迫ることができますが、それらを持っていないと意外と後手玉に迫る手段がありません。そして現状では先手はそれらを持っておらず、さらに盤上で手に入れることもできそうにありません。逆に後手からすると、角と銀を渡すことだけに注意して先手の玉を攻めればよい局面に持ち込んだわけで、非常に考えやすくなりました。

 このように「〇〇さえ渡さなければ自玉は詰まない」という状況を発見してその局面に持ち込む技術は、とても役に立ちます。藤井四段がまさにその状況をつくり出した第3図から第4図までの手順は、プロ棋士にとっては当たり前の手順かもしれません。しかし逆にプロでもそういう基本的な手順の積み重ねで指しているわけであり、我々アマチュアが参考にできるところでもあります。

 第4図以下は▲68角△67歩成▲65銀△78銀となって、先手玉に受けがなくなり梶浦四段の投了となりました。

 以上のように、踏み込みの良さと安定の終盤力を発揮して勝利した藤井四段。最初に書いたように本日19時から行われる叡王戦予選2回戦に進みました。2回戦も初戦と同様にニコニコ動画の将棋公式生放送チャンネルで生中継されます。どのような将棋を見せてくれるのか、非常に楽しみです。

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