妙高山登山(2017年8月14日)

 一昨日、妙高山に登ってきました。左肘骨折からの復帰登山であり、新登山靴「タイオガブーツ」のデビュー登山でもありました。しかし道のりはとても厳しく、今までで最も死を意識した山行となってしまいました。反省記を書きます。

・準備

 自分の体調と天気予報から、登山日を8月14日前後に設定した。最終的な日時決定は、日が近づいて精度が上がった天気予報を見てからにすることにした。

1.トレーニングと体調

 6月下旬に骨折をして約1か月間満足にトレーニング(主にランニング)ができなかった。その間の身体諸機能の低下は不可避だった。しかし、7月下旬から再開し、ランニングに必要な筋量は骨折前と同等に、心肺機能も骨折前の状態に近づいている実感はあった。一方で登山は2か月以上しておらず、登山に必要な筋肉が落ちている不安があった。そこで今回の復帰山行では、コースタイムが長すぎず、体力に余裕を持てるルートを選ぶことにした。

2.山とルート選び

 『谷川岳・越後・上信越の山 (ヤマケイアルペンガイド)』を参考にして行く山を決めた。条件は、実家から交通の便が良いこと、道のりが長すぎず短すぎずコースタイム6時間程度であること、難易度が高くないこと(中級まで)、できれば百名山であることだった。

 まず交通条件と百名山条件で妙高山谷川岳、火打、巻機山に絞られた。

 次にコースタイム条件でほぼ妙高山に決まった。他の山が除外された理由を簡単に書いておく。

谷川岳;様々なルートがあるが、一番簡単なロープウェイを使った天神尾根ルートなら両親でもいけるかもしれない。両親と一緒に行くのに残しておきたい。

火打;笹ヶ峰からのルートがコースタイム8時間超で、少し長い。体力面で不安。

巻機山;コースタイム10時間超で長い。

 妙高山の燕登山道から登り燕新道で下山するルートは、コースタイム6時間15分で、程よい。しかし、ヤマケイアルペンガイドに記載されているコースタイムは、巻数・著者によって基準がまちまちであることに気を付けなければならなかった。妙高山のコースタイムはかなり健脚向けに設定されていたと思う。YAMAPでは同コースのタイムは8時間半程になっていた。

 私はこれまでの登山で、YAMAPのコースタイムの3/4程度のタイムで登り下りしていたので、今回もそのとおり、ちょうどヤマケイアルペンガイドのコースタイムで行けると想定した。

3.天候判断と登山日決定

 天気予報から、14日前後で最も天気がいいのは14日であると判断し、この日を登山日に決めた。しかし、ここのところ上信越地方は梅雨が明けきっていないかのような天候が続いており、天気がいいといっても曇り時々晴れ程度の予報だった。ただ、天気図を見ると、西から前線が近づいていたのは気になったが、大荒れするような天気図には見えなかったので、行けると判断した。

4.まとめ

 体調と天候の条件は悪くはなかったはずだ。しかしルート選びはもっと慎重に行うべきだった。というのも、コースの難易度(どの程度の急登を含むか)を軽視していたからだ。上に挙げた候補の山の中でも妙高山は急登が多く、コースタイムが短いからという理由だけで選ぶべきではなかったかもしれない。実際、登りで予想以上に心身を疲弊し、時間的余裕も無くなり、後に判断を誤らせる要因となった可能性がある。

 

 ここで、YAMAPによる今回のルート記録を載せる。

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 血の池を経由し燕登山道に合流するルートから登り、燕新道で下山した。

 

・山行中の諸判断

1.天候判断

 朝、燕登山口に着くと小雨が降っていた。天気予報からこれは想定の範囲内で、大荒れになることはないだろうし、山頂は雲の上で晴れているのではないかと予想した。もちろん予想を過信することはできないが、雨風が強まったり雷雲ができたりしない限りは登ろうと思った。

 実際、登っている間は小雨が降ったりやんだりであった。また山頂は晴れで青空も見えた。しかし、下山中は徐々に雨が強まった。と言っても大雨ではなく、印象としては普通か弱めの雨という程度だった。しかし、山においてはその程度の雨でも様々な危険を引き起こすことを軽視していた。

2.ルート選びにおける葛藤①

 本来、今回通ったルートの南にある北地獄谷ルートから登る予定だった。しかし、登山口に大きな地図看板が立っており、そこには血の池経由ルートが主ルートで地獄谷ルートはサブルートと記してあった。それを見て、主ルートの方が歩きやすいだろうと思い、血の池経由のルートに変更した。しかし、下山後に確認したところ地獄谷ルートの方が整備されており、登山者も多いとのことだった。一方血の池ルートは深い樹林帯の中を掻き分けながら進む感じで、足元も雨でぬかるみ歩きづらかった。

 元々地獄谷ルートを予定していたのは、事前の様々な情報収集でそちらの方がメジャールートだと考えられたからだ。しかし登山口にある地図には逆のことが書かれていた。この時にどちらの情報を信頼すべきかという問題が生じた。私は登山口にある情報の方が現地に近くて信頼できると思ったのだが、これが間違いだった可能性がある。

3.ルート選びにおける葛藤②

 下山は燕新道を予定していた。しかし、登っている途中に様々な不安が生じて下山ルート変更を考えた。

 一つ目の不安は、登山者数の少なさとそれに伴う熊との遭遇の恐怖である。登りでマイナールートを選んでしまったのだが、そのルートは燕登山道に合流するまで登山者と全く会わず、クマが出たらどうしようと、非常に心細かった。

 二つ目の不安は、登山道の歩きにくさである。登りのマイナールートの大部分は雨でぬかるんで滑りやすいうえに、草木が茂っていて、道幅が狭く、片側が崖になっていて危険なルートであった。もし人気がないここで滑落したら誰にも発見されず自力で這い上がることもできず死ぬだろうという箇所が多かった。

 この二つの不安により、登り中にかなり神経をすり減らしたのだが、下山予定の燕新道も決してメジャールートとは言えず、登りと同じような条件の道の可能性があると思った。それは精神的にキツイと思った。また燕新道ルートは渡渉箇所が複数あり、雨による増水でそれができなくなっている可能性も考えられた。

 燕新道にはこのような危険要素が考えられ、山頂での休憩中に別ルートでの下山を考えた。最も有力な候補は笹ヶ峰へと降りるルートであった。このルートは途中で火打の登山道と合流するため、火打下山者と合流して人気のなさが解消される可能性が高いと考えられた。また事前に調べたところ、整備されていて歩きやすいルートであるという情報もあった。

 燕新道ルートと笹ヶ峰ルートは途中まで同じルートで、その分岐点まで下りて、そこでまたどちらにしようか考えることにした。分岐点まで下りるとそこには休憩できるスペースがあり、そこでしばらく休みながら他の登山者がどちらのルートへ下りるか観察した。すると、単独行者が笹ヶ峰方面へ、親子二人が燕新道へ向かった。登山者が少なく、それ以上のデータは得られなかったが、親子二人が燕新道方面に下ったのを見て、決してマイナーなルートではないのかと思い、そちらへ下ることにした。下調べで燕新道ルートで下山している登山記をいくつか見たことも後押しした。しかし、このとき、このルートには渡渉点があることを忘れていた。

4.もっとも危険な登山に

 いざ燕新道を下ったが、その道は徐々に狭くなっていった。登りのマイナールートよりもさらに狭く滑りやすく、片側が崖で、やはり滑り落ちたら死ぬであろう箇所が長く多くあるルートであった。また人気もなく、常にクマの恐怖に囚われた。(結局下山するまで先の親子2人以外には会わなかった。)

 途中で足を滑らせとっさにバランスを取ろうとした際に、身体をひねりすぎてわき腹を痛め、しばらく息ができなくなった。たまたまそこは幅がある道で滑落することはなかったが、どんどん精神的に余裕がなくなっていった。また、後で考えてみるとこのとき軽い脱水症状が見られたのだが、早く下山したい思いが強すぎて、立ち止まって水分補給することが億劫になっていた。結果、いつ重篤な脱水症状に陥ってもおかしくない危険性も持ち合わせてしまっていた。

 それでも何とか危険な道を切り抜け、8割は下ったかというところで現れたのが渡渉点。これの存在を忘れていた。本来はさらさらと流れる小川であったはずのそこは、長く続いた雨により増水し、濁流が勢いよく流れていた。見回してみても普通に歩いて渡れそうな地点は無い。1か所だけ川幅が1メートルちょっとくらいの所があった。ジャンプすれば距離的には容易に渡れる。しかし着地点の岩が滑ったり不安定だったりするかもしれない。そこでバランスを崩して川に落ちれば、瞬く間に濁流にのまれ岩に打ちつけられ、死。

 茫然とした。以前読んだ本には、沢が増水中の時は勢いが引くまで待つと書いてあった。しかし、天気予報では雨が止みそうになかった。これはビバークか?それとも救助要請か?どちらも初めての経験だ、怖い。しばらく混乱していると、先に追い越していた親子2人が下りてきた。親御さんに「渡れますか」と聞くと飄々と「大丈夫だよ」言われた。そして例の1メートル地点を迷うことなくジャンプし無事に渡った。子ども続いた。その岩は滑らず安定していることが確認された。私も続いた。

 その後もう一か所渡渉点があった。そこもやはり濁流だったが、そちらはなんとか足場を確認しながら進むことができた。最後の難関を乗り越えることができた。

 親御さんは着地点の岩の危険性をどう考えていたのだろうか。もしあれが滑る岩だったら、不安定な岩だったら、かなりの確率で死が待っていたはずである。そうでない自信があったのだろうか。渡った後ちょっと質問してみたが曖昧な返事が返ってきた。いまだに疑問である。なにはともあれ、今の私があるのは彼らのおかげである。お礼を言って別れた。

 以降は徐々に歩きやすい道となり、なんとか下山することができた。しかし、笹ヶ峰ルートから下りた方が安全だったのは間違いない。

 

・まとめ

 以上のように、今回の山行は楽しみとは程遠いものになった。長い下りの中、危険個所で足を滑らせなかったのは幸運というほかない。また、もし渡渉に失敗していたら・・・。

 このような事態に陥ってしまった原因と改善点をまとめる。

1.体力過信

 骨折後の体力低下、妙高山という急登コースにもかかわらず、なんとかなるだろうとう根拠なき自信があった。そして登りで心身ともに疲れ、早く下山したい楽になりたいという思いが出て、冷静な判断ができなくなった。また、予定より時間が押し、バスに乗り遅れる可能性が出たことも、安全第一の思考を妨げた。

 自分の体力を客観的に判断し、余裕のある登山計画を立てなくてはならない。

2.クマ対策知識不足

 今回判断ミスを誘った精神の疲弊には、クマとの遭遇の恐怖も一因となっていた。上信越はクマがよく出る。登りの人気のない草木に覆われた道で、すっかり怯えきってしまっていた。熊避け鈴はつけていたのだが、絶対的な効果があるわけではない。

 私がここまでクマに怯えたのは、クマと出会ってしまった時の対処法を知らないからというのが大きいと思う。もちろん、絶対に助かる方法なんてないし、どんなに頑張っても助からないこともあるだろう。しかし、せめて、こうすれば助かる可能性が高い、これだけやっても助からなかったら仕方ない 、というところを知っていれば、いい意味で諦めがついて、もう少し余裕が持てるだろう。したがって、クマ対策の本(『クマにあったらどうするか: アイヌ民族最後の狩人 姉崎等 (ちくま文庫)』など)を読んで、知識を得る必要がある。

3.情報の活用ミス、楽観主義バイアス

 登山前に本やブログなどでそれぞれのルートのだいたいの様子は調べていた。しかしそれらの情報を自分の中で整理していなかったため、登山口においてや登山中のルート変更の際、冷静に比較検討することができなかった。もちろんこれには上の疲労も影響していたと思う。

 また、ルート決定の際には、自分に都合の良い情報の記憶が強調された気がする。いわゆる楽観主義バイアスというもので、これも冷静な判断を妨げた。

 それからルート情報と天気予報を結びつけて考えなかった。たとえば雨により渡渉点が増水してい可能性を忘れていたり(これは言語道断であるが)、滑りやすく滑落の危険性が高い箇所が生じることを考えられなかった。ルート情報と天気予報を組み合わせ、潜在的な危険性を見いだせるようにならなくてはならない。

 以上のように、今回の登山では情報をうまく活用することができなかった。事前に調べる際には、それぞれの情報を自分の中でしっかりと有機的に位置づける必要がある。また、現地で迷ったときには登山案内所や他の登山者から積極的に情報を仕入れるべきである(今回は登山案内所は無かったが、他の登山者からもっと情報を得ることはできた)。それと、基本的に雨の日は行動しないほうが良い。

4.単独行の危険性

 ここまで書いた様々な危険を回避する手段として、パーティでの登山がある。複数人で登山をすれば、精神的に余裕を持て、判断力が鈍ることが減るだろう。また遭難したときに仲間から救助してもらえたり、一緒に切り抜けたりできる可能性が高まる。警察庁の統計によると、遭難したときの死亡・行方不明率は、単独行ではパーティ登山の2.3倍にも上るらしい。それだけパーティ登山では遭難したときに助かる可能性が増し、単独行は危険ということである。

 単独行を極力避けることが望まれる。大学のサークルに入ろうか。

 

以上で反省記を終わる。

最後に一応、今回の山行で撮った写真を貼る。といっても写真を撮る余裕がほとんどなく、またガスに覆われていて良い撮影ポイントがなかったため、数は少ないが。

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 なんとか下山し終わったとき、あまり生きている実感がわかなかった。疲労とかつてない危険を踏んでしまったショックで呆然としていた。家に帰って夕飯を食べて生きててよかったと思った。

 帰宅後もずっと脱水症状による頭痛が引かなかった。帰ってからかなり水分を取ったが、もしやまだ足りないのかと不安になり、アクエリアスをガバ飲みした。すると短時間で何度もトイレに行きたくなり、もう水分量は足りているな、ただ頭痛だけが残っているだけか、とちょっと安心した。実際寝て起きたら治っていた。

 やはり登山は安全第一が良い。そうでないとせっかくの山も楽しめない。今回の反省から、自分の登山スタイルを根本から見直すことにする。